鈴木淳也のPay Attention

第247回

100万会員を見据えた「dカードPLATINUM」 グループ再編進むドコモのdカード戦略

「dカード PLATINUM」

世界的に広がるキャッシュレスの波だが、やはり日本での中核であり、トレンドをリードするのはクレジットカードの存在だ。現在では国内主要携帯キャリア4社すべてがカード事業に本腰を入れ強化しており、その中でも“おサイフケータイ”を提供する過程でいち早くこの分野に注力してきたのがNTTドコモだ。

現在は「dカード」と、2007年から提供が開始された「dカード GOLD(当時の名称はDCMX GOLD)」に加え、2024年11月には「dカード PLATINUM」の提供を開始した。

カード事業を展開する各社は優良顧客獲得のため、従来のノーマルカードからゴールドに加え、新たに“プラチナ級”のカードを用意するなど、より高級化路線を模索しているが、提供開始から半年が経過した「dカード PLATINUM」の現状はどうなっているのか。NTTドコモ コンシューマサービスカンパニークレジットサービス部長の鈴木貴久彦氏と同部クレジットサービス戦略 戰略担当課長の木川真孝氏に、25年2月より提供が開始された「dカード GOLD U」の概況とあわせて話を聞いた。

「dカード PLATINUM」の提供開始直前(24年11月)に鈴木氏にインタビューした石野純也氏のレポートと合わせ、狙いと結果がどうなったかをみてほしい。

年度内の100万会員達成は射程圏内に

dカードPLATINUMの年会費は29,700円。dカード GOLD(11,000円)の上位カードで、高い還元率(1%)とともに、年間利用額に応じたクーポン付与、ドコモサービスでの最大20%還元、投信積立でのポイント付与、プライオリティ・パスといったポイントを軸にした特典充実が特徴となっている。

石野氏のレポートにもあるように、dカード PLATINUMの発表に際してNTTドコモ代表取締役社長の前田義晃氏は「数年内に3桁万」の目標を掲げていた。つまり100万会員突破が当面の目標ということだ。

前田社長の発言当時、dカード GOLDの会員数は1,100万で、その1割程度にあたるPLATINUMユーザー獲得を狙っていたことになる。年会費で3倍近い差がある両者だが、鈴木氏によれば想定を上回るペースで会員を獲得できているという。

2024年11月に提供開始されたドコモの「dカード PLATINUM」と今年2025年2月から提供を開始した「dカード GOLD U」

鈴木氏は、「4月末時点で60万会員を突破し、現状のペースであれば今年度内になんとか100万達成が見えてきました。最初は申し込みが殺到して受け付けを止めなければいけなかったほどのペースで申し訳ない状況でした。現状は落ち着いてきたものの、2月から5月までの数字を見て3桁到達に向けたペースは維持できています。最初の勢いがある頃はGOLDをメインで使っていた方が中心で、年齢層は40代や50代が多かった。いまは年齢層が徐々に下がってきており、30代とか40代の資産形成層が増えています。マネックス証券との連携でdカード積立のキャンペーンを行なっており、通常ポイントの付与が最大3.1%といった施策が評価を得ている」と語る。

NTTドコモ コンシューマサービスカンパニークレジットサービス部長の鈴木貴久彦氏(左)と同部クレジットサービス戦略 戦略担当課長の木川真孝氏(右)

dカード GOLDはその登場時期や経緯もあり、もともと通信特化の形で特典が設定されていた傾向がある。今回のdカード PLATINUM設計にあたり、連結子会社化されたマネックス証券などグループ会社が増えてきた「資産形成」のほか、もともと(他社)クレジットカードが力を入れていた「トラベル&エンターテインメント」における国内外の旅行保険やプライオリティパス、そしてIGアリーナ優待といった特典を拡充してきた。鈴木氏はその中でも、今回は資産形成という部分が上手く刺さったのではないかと分析する。

3万円弱のプラチナカード プラチナかゴールドか

dカード PLATINUMは製品として一定の成功が見えてきていた。一方、近年では“ゴールド”カードと“プラチナ”カードの境が曖昧になりつつある。

例えばAmerican Expressでは準プラチナと呼べる特典を備えたゴールド・プリファード・カードを出しており、その逆に三井住友カードではプラチナプリファードというゴールドカードに近い(Amexのゴールド・プリファード・カードより安価な)年会費の比較的手軽なプラチナカードを提供している。dカードではバリエーションとしてPLATINUMとは異なる商品性、あるいはPLATINUMの上位にあたる商品についてどう考えているのか。

アメリカン・エキスプレス・ゴールド・プリファード・カード(年会費は39,600円)

「(招待制の)JCBのザ・クラス(年会費5.5万円)などは、dカード PLATINUMのような3万円弱のレンジの商品とは少し違うと考えています。プラチナの上のラグジュアリーカード(5.5万円~)のようなハイランクなカードや、JALカードのようにプラチナそのものにバリエーションを持たせたりといった考え方もあるかと思いますが、dカード PLATINUMは、もともとdカード GOLDをたくさん使っていただいているお客様の声から生まれた商品です。現時点ではdカードでプラチナの上を考えてはいません。ただ、dカード PLATINUMを使うお客様の声を聞いたうえで、もう少し上にわれわれも挑戦していいんだとなったら、改めて考えていきたい」(鈴木氏)

2020年の記者会見で「プラチナプリファード」(年会費33,000円)を発表する三井住友カード代表取締役社長執行役員CEOの大西幸彦氏

ただし鈴木氏は、従来と同じ発想での商品は難しく、マネックス証券や(ドコモが連結子会社する)住信SBIネット銀行などと連携し、しっかりと富裕層をキャッチできる作りが必要だとも補足する。

dカードそのものが「ドコモ回線を契約するユーザー一般を狙った大衆向けのクレジットカード」からスタートしており、dカード GOLDやdカード PLATINUMでも基本的にはその路線から大きく逸脱はしていない。商品性を突き詰めるとターゲットとするレンジがより狭くなり、そのうえでdカードとしての特長を出す必要が出てくるため、よりグループ内の“アセット”をどう活かすかという話につながっていく。

ポイ活視点でいえば、ポイ活をやっている人は、利用金額が2倍近くなるというデータが出ており、dカード GOLDやdカード PLATINUMでは、さらに広がることになる。ドコモは5日から新料金プランの「ドコモMAX」「ドコモポイ活MAX」を開始しているが、これ自体がdカード PLATINUMの契約増に直接リンクするわけではないものの、会社全体の影響として考えると大きい。

なお鈴木氏によれば、MAXプラン自体は事前キャンペーンのエントリー数が事前計画を上回る状態で、DAZNの標準セットなど「刺さる人には刺さる」(同氏)といった状況のようだ。

dカード利用を加速するポイ活MAXプランが先日発表された

若年層をどう攻略するか

次は若年層向けの「dカード GOLD U」の話だ。29歳以下を対象としたゴールドカードで基本の年会費が3,300円、さらに一定条件を満たすことで年会費が無料になるというもの。

一般にゴールドカード所有のメリットとして、旅行保険の付帯サービスや、携帯キャリアであれば携帯補償サービスといった“追加特典”が挙げられるが、こうした特典を必要としない利用者層も多い。若年層ほど「年会費を払ってまでゴールドカードが必要なのか」という傾向があると筆者は認識している。

他方で、カード会社各社は現在若年層の利用者獲得に特に力を注いでいる。利用金額としては少なくとも、今後将来にわたって若年層人口は減少の一途をたどるため、自ずと従来の稼ぎ頭だったボリュームゾーンが先細る。結果として会社間での顧客の奪い合いが熾烈化することになる。クレジットカードの本格利用が始まるのは20代後半以降となるため、それまでになるべく自社のサービスとの接点を増やすべく、各社ともいろいろと知恵を絞っているのが現状だ。

ドコモのケースでは、携帯キャリアでもおそらく一番年齢層が高く、若年層のカバー率が弱いというのが現状だ。実際、鈴木氏もdカードの契約状況について20代が弱いことを認めている。

「(空港)ラウンジを使いたいとか、ゴールドカードの付帯サービスに興味はあるが、年会費は払いたくないという方はいらっしゃる。こうしたニーズをどう満たそうかと行き着いた先が『dカード GOLD U』です。最初は申し込みが全然来ないのではと不安でしたが、想定より多い申し込みをいただいています。将来的にはGOLD Uだけで100万会員のような形にしたいが、この商品は30歳の誕生日になった時点で通常のGOLDへと自動昇格します。18、19歳から積極的に入っていただきたい、というのが本音」(鈴木氏)

dカード GOLD Uの製品説明ページ

若年層向けのクレジットカードには独特の難しさがあり、筆者が最近カード会社を含む複数社への取材で分かったのは「年齢制限のないプリペイドカードやコード決済で親を通じて比較的年齢が低い時点から顧客を囲い込み、将来へのクレジットカードへのステップアップとしてもらう」という考え方をしている企業が増えているということだ。

実際、三井住友カードなどは「Olive」で同様のアイデアを持っているし、ソフトバンクとの提携によってPayPayと接続することで、このあたりをさらに盤石にするという意図もある。ドコモではd払いという枠組みがあるが、それに加えて「(住信SBIネット)銀行というパーツが入った段階で、グループとしてできることがあるのではないか」(鈴木氏)と述べている。

なぜアリーナが「dカード」? グループ戦略とiDの未来

7月に愛知県にグランドオープンする「IGアリーナ」もdカードの推進に欠かせない役割を担う。

同アリーナを運営する愛知国際アリーナとドコモは、3月にファウンディングパートナーシップ契約の締結を発表しており、「dカード」を前面に推しだしたブランディングや周辺サービス作りなどが可能になった。アリーナには、dカード保持者のための専用ゲートやラウンジも用意されるなど、この巨大な“箱”を利用してどのようにドコモが自社サービスをアピールしていくのかに注目が集まっている。

IGアリーナのdカード専用ゲート

鈴木氏によれば、ボクシングのスーパーバンタム級4団体世界統一王者 井上尚弥の試合が9月にIGアリーナで開催される予定だ。また、別会場の日産スタジアムになるが、明治安田Jリーグ ワールドチャレンジまで、dカード限定でチケットの先行販売を行なうなど、各種の優待を設けていくという。

IGアリーナのdカードラウンジ

「クレジットカードは、お客様自身の身近な環境や経済圏に近い場所にあるため、ドコモ回線はないけどdカードには興味がある、という環境作りは難しい。マネックスのdカード積立であったり、今回のIGアリーナを介して、dカードそのものに少しでも興味を持ってもらうきっかけを作りたくて施策を打ってきた」(鈴木氏)

IGアリーナでスポーツやエンターテインメントの部分を強化していくのも、露出を増やすと同時に、少しでも広い層にdカードという商品に興味を持ってもらうことが狙いだ。とはいえ、どういった訴求ポイントであれば潜在層のニーズに刺さるのか不明な部分もあり、それを手探りで当たりを付けているのが現状のようだ。

同時に、マネックス証券のグループ入りもまた、資産形成ニーズを持つ層の開拓に一役買ったという面で意義が大きいという。今後もグループ企業の布陣を拡大し、さまざまな層のニーズを吸収していくというのが、dカードとドコモのサービスの裾野を広げる足がかりになっていくのだろう。

最後に、dカードと直接リンクするわけではないものの、ドコモが推進してきた「iD」の今後について聞いてみた。

「特に説明できるような話はないが、少なくともわれわれの事業方針でネガティブな話題はない。MastercardやVisaとの重複部分があることは承知しており、いずれはデュアルではなくなるパターンも含めてわれわれが考える時期が来ることは想定している。一方で(食事補助の福利厚生サービス)チケットレストランのようにiDのネットワークを利用しているお客様もいる。すぐに大きくなにかが変わるという話はない」

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)