ミニレビュー
USBアダプタで動くフルサイズ扇風機 山善「USB PD扇風機」を試す
2025年6月7日 09:15
近年、さまざまな生活家電やキッチン家電がUSBでの駆動、あるいは充電に対応しつつあります。電動ドリルやハンドミキサー、さらにはシェーバーなどもUSB充電のモデルが発売されており、驚かされます。
今回紹介するのは、山善が3月に発売したUSB PD駆動の扇風機です。USB対応の扇風機と言えば、卓上に置くポータブルなタイプやハンディファンが思い浮かびますが、この製品は一般的な扇風機のサイズそのままに、USB PDアダプタを用いての駆動に対応することが特徴です。
USB PDに対応することでどのようなメリットがあるのか、どんなシーンで利用価値があるのか、実機を購入してしばらく使ってみましたので、レビューをお届けします。
扇風機としての見た目や仕様はごく一般的
今回筆者が購入したのは、同社が発表したUSB PD対応扇風機のなかでも最上位にあたるモデル「RLX-MP023」(実売13,800円)です。ボディカラーは、今回筆者はベージュに近い「グレージュ」というカラーを選択しましたが、一般的なライトグレーやブルーグレーといったカラーも用意されています。
USB PD対応といっても、外観はごく普通の扇風機と変わりません。ファンの径は小さめですが、これはUSB PDだからというわけではなく、もともと口径が小さいモデルであるというだけです。
最上位機種ということで扇風機としての機能は豊富で、首振りは左右に加えて上下方向にも行なえるほか、首振りの角度制御(左右40/70/100度、上下30/60/90度)にも対応。また風量は8段階で調整できるほか、揺らぎを作り出すリズム風にも対応します。
さらにオン・オフタイマーや、徐々に風を弱くしていくおやすみモード、また洗濯物の下に本製品を設置し、上向きに首を振りながらランダムな風を送る衣類の乾燥モードも利用できます。本体が小柄なことを活かした機能で、室内干しが多い場合に重宝します。
これらは万人に必要な機能ではないものの、こうした生活家電では、これまで気にもとめなかった機能が便利と感じられるシーンが突如到来することはよくあるもの。予算さえ許せば、こうした上位機種を買っておくというのはありでしょう。
USB PDに対応していることのメリットとは
さて、USB PDに対応していることで、どんなメリットがあるのでしょうか。ひとつはコンセント以外にモバイルバッテリーでも駆動できること。これにより、配線がない場所でも利用できるほか、停電時の利用も可能になります。
近年は、災害利用などを視野に入れた、バッテリー内蔵の扇風機も登場していますが、本製品なら手持ちのモバイルバッテリーやポータブル電源と組み合わせられるため、さらに自由度が高まります。将来的に処分する場合も、モバイルバッテリーやポータブル電源はそれぞれの回収方法に従えばよいので、内蔵タイプに比べて対処は容易です。
また部屋から部屋へと持ち歩く場合も、それぞれの部屋にアダプタとケーブルを用意しておけば、持ち歩くのは本体だけで済みます。長さが足りない場合に長いケーブルに差し替えるのも容易なほか、万一断線した場合も、市販のUSBケーブルで代替できます。
気をつけたいのは駆動に必要な電力および電圧です。
基本的に「20W以上」あれば対応するのですが、もうひとつ「電圧20V」という条件がついており、これが少々厄介です。というのも、昨今ほとんどのモバイルバッテリーや充電器は20Wの出力に対応していますが、その内訳は「9V×2.2A」などがほとんどで、20Vという電圧には非対応だからです。
20Vが使えるは、最低でも30W(20V×1.5A)が必要で、つまり実質的には20W対応のUSB PDアダプタは非対応で、原則として30W対応、さらに用心するならば45W対応の製品を選ぶのがベターといえます。ちなみに標準添付のUSB PDアダプタは最大36W(20V/1.8A)対応と、かなり特殊な仕様ながら電圧20Vに対応しています。
ところでこれらの条件を満たさないUSB PDアダプタに接続した場合はどうなるのでしょうか。この場合は、運転ボタンを押した段階ですべてのLEDが5回点滅し、運転が行なえないことを知らせます。USB PDでないアダプタ、具体的にはUSB A-Cケーブルを使ってUSB A仕様のアダプタに接続した場合も同様です。
10000mAhのモバイルバッテリーで約8時間の長時間運転
では、上記の条件に合致したモバイルバッテリーが手元にあったとして、どのくらいの時間にわたって駆動できるのでしょうか。今回は、満充電した容量20,000mAhのモバイルバッテリーを用い、風量が8段階の3、左右首振りオン(70度)という、通常利用に近い設定で運転を行ってみました。
本製品は8時間を超えると自動停止する機能がついており、今回の実験ではちょうどバッテリー残量が「56%」の時点で8時間を超え、運転が終了しました。約10,000mAh程度あれば8時間持つということで、電源を再度入れ直せば、20,000mAhという容量につき16~18時間の運転が可能になる計算です。
これだけ長時間の運転が可能であれば、アウトドアでの利用などでも十分な実用性がありますし、災害時の備えとしてもかなり有用です。もちろん本格的な災害ともなるとどれだけバッテリーがあっても足りないでしょうが、比較的身近な容量である10,000mAhあれば一晩持たせられるのは心強いですし、そもそも日本での停電は、年間で平均して数分程度と言われますので、非常用としては十分です。
ところで最近のスマホやタブレットが搭載している、外部のデバイスに残量を“おすそ分け”するリバース充電機能を使って駆動させることは可能でしょうか。充電と給電のどちらにも対応したデバイスに接続するとどのような挙動を示すかは興味深いところですが、現時点ではそうした問題以前に、前述の「出力20V」という制限に引っかかることから、給電は不可能です。
試しにiPhoneおよびPixelを接続してみましたが、これらのリバース充電での出力はせいぜい5V/1.5A程度ということもあり、電力不足を示す5回連続の点滅が発生し、駆動させることはできませんでした。将来的に20Vでの出力に対応したスマホやタブレットが出てくればできなくはなさそうですが、接続時にお互いの素性をチェックするUSB PDのプロセスをクリアしなくてはならないなど、ハードルは高そうです。
幅広い用途に使える便利な製品 ミドルクラスのモデルにも注目
以上のように、さまざまな電源が使えることで幅広い用途に使える、非常に便利な製品です。個人的には災害時にさえ活躍してくれれば構わないと思っていたのですが、日常使いにおいても、あちこちの部屋に移動させる場合に各部屋にケーブルやアダプタを置きっぱなしにし、本体だけを持ち歩けば済む点が重宝しています。
実売価格は13,800円と、一般的な扇風機が3~5千円程度で買えることを考えれば少々お高めですが、同じ「PD仕様扇風機シリーズ」のミドルクラスのモデルは8千円前後から入手できますので、災害を想定した備品と考えればあり得る価格帯と言えます。
色のバリエーションも豊富ですので、次に扇風機を買い替えるタイミングで、こうした製品を狙ってみるのもありではないでしょうか。