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Wi-Fi利用で山岳遭難者位置を数メートル精度で特定 ソフトバンク
2025年6月9日 17:03
ソフトバンクと東京科学大学は、雪山や山岳地帯での遭難者救助を迅速化するため、「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を開発した。携帯端末のWi-Fi機能を使い、遭難者の位置を数メートル以下の誤差で特定する。2026年4月頃の実用化を目指す。
同システムは、携帯端末に搭載されているWi-Fi機能を活用して、携帯の通信圏外でも、雪に埋まった遭難者の捜索時間を大幅に短縮できる。GPSなどのGNSS(衛星測位システム)を活用した遭難者位置特定システムで20メートル四方に位置を絞り込み(1次特定)、その後同システムを併用することで、約10分で半径数メートルの範囲に遭難者の推定位置(Wi-Fi推定位置)を特定する。
ソフトバンクは、雪山や山岳地域などでの遭難者救助を目的として、2022年にドローンを使った無線中継システムで通信圏外を一時的にサービスエリア化し、スマートフォンの測位機能で遭難者の位置情報を取得・共有する「ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム」を開発している。
このシステムにより、GNSSで得られた遭難者の位置に向かって、効率的に移動できるようになったが、一般的にGNPSの位置推定精度は、スマホに搭載されている測位機能や受信した測位衛星の数や位置によって異なるため、実際には端末がある位置と時差が生じる。地上では約5m雪下では約10mの誤差が生じるため、捜索範囲を約20メートル四方に設定する必要があった。この範囲を捜索するには数時間を要することが課題となっていた。
技術としては、「ドローン遭難者捜索支援システム」で特定したGNSS推定位置の誤差範囲内で利用することを基本とする。Wi-Fiアクセスポイント(遭難対応AP)、モニターとして利用する携帯端末(RSSIモニター)、Wi-Fi指向性アンテナ(指向性アンテナ)で構成される。遭難対応APに指向性アンテナを接続し、RSSIモニターを取り付けて使用する。
測定では、遭難対応APを起動してWi-Fi電波を送受信し、遭難者の端末とRSSIモニター間の通信を確立する。遭難者の端末は、遭難対応APが発する電波の受信電力(RSSI)を測定し、その値を一定間隔でRSSIモニターに送信する。捜索者は、RSSIモニターに取り付けた指向性アンテナを回転させ、内蔵のジャイロセンサーで指向方向とその向きにおける遭難者端末の受信電力値を取得し、RSSIモニターに表示する。受信電力が最大となる方向に進むことで、遭難者に近づける。
RSSIモニターにはジャイロセンサーにより回転角を取得し、受信した遭難者端末の受信電力値が円グラフで表示され、測定開始からモニター確認時までの受信電力の最大値とその方向も同時に表示される。これにより、遭難者端末がある方向の探索が容易になる。
例えば、約3メートル進むごとに指向性アンテナを回転させて受信電力が最大になる方向を確認し、その方向に進む。遭難者端末に近づくほど受信電力は大きくなるため、この探索を繰り返して受信電力が一定値(しきい値)を超える場所を探索し、その場所をWi-Fi推定位置と特定する。しきい値を最適に設定することで、誤差を数メートル以下に抑える。しきい値を超えると効果音で知らせる機能も搭載し、捜索者が常時モニターを見る必要をなくす。
同システムの利用には、「ドローン遭難者捜索支援システム」と同様に、遭難者対応のアプリケーションの事前インストールが必要となる。アプリケーションには、遭難対応APと遭難者端末が自動で通信するためのAP名(SSID)とパスワードが事前に登録されている。
実証実験では、東京科学大学の敷地内で10個の紙袋のうち1つに遭難者端末を入れ、10メートル四方のエリアにランダムに配置。指向性アンテナの半値角は40度、遭難者端末の受信電力値の送信間隔は3秒、しきい値は-40dBmに設定した。捜索者は「Wi-Fi遭難者捜索支援システム」を使い、10分以内に遭難者端末が入った紙袋の近くに到着し、効果音で位置を特定した。この実証におけるWi-Fi推定位置の誤差は約1メートルだった。